Share

第38話 最初の誤算

Author: あるて
last update Petsa ng paglalathala: 2026-06-21 06:00:34

 ――リンゼン帝国 帝都セント・レグナス 市街地――

 帝都兵の一部隊が列をなして祭祀場への道を急ぎます。

 市民たちもその姿を目撃していましたが、祭祀にまつわる警護か催しのひとつだろうと思い、特に気にする者はいませんでした。この時点では蜂起した者たちの思惑通り。これが大部隊の派遣であれば、ただ事ではないと騒ぎになっていたでしょう。

 そして彼らは市民の列をかき分け、祭祀場へ到着。

「どこだ?」

「どうして祭司長である皇帝がいない?」

 周囲の市民に確認すると、皇帝は役割を終えた後、早々と皇帝廟に戻ったとのこと。

 拉致するべき相手の動向すら把握していなかった兵士たち。さすがに近衛兵五千が警護する場所に彼らだけで向かうわけにはいきません。

 しばし途方に暮れましたが、いないものは仕方ないので彼らはそのまま城壁外へと引き返していきます。

 そしてこれが彼らの計画を大きく狂わせる最初の誤算。

 ――リンゼン帝国 城壁外――

「皇帝がいなかっただ

Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App
Locked Chapter

Pinakabagong kabanata

  • ハワード王国の王子様   第42話 不可逆な結末

    「これをあそこに見える、ハワード王に向けて撃て」 隻腕のローゼンベルクは自ら弓矢を扱うことが出来ないため、毒を振りかけた矢を兵に渡して命じます。その兵は狼狽えてしまい、その矢をなかなか受け取ろうとはしません。「ぎ、議員。いくら攻撃されているとはいえ、かの国は我が帝国の立派な同盟国。その王を討ち取ってしまっては、大変なことになるかと……」 皇帝を取り囲んでしまった以上、彼らはどうあがいても反乱軍であり、帝国の政治に介入する権利はありません。敵対関係にあるわけでもない一国の王を毒矢で射るなど、一介の兵士に判断するにはあまりにも重大な事案でした。彼が戸惑うのも当然の事だったのです。 しかし、ローゼンベルクは一歩も引きません。 その姿は先ほどまでの衰えた老人ではなく、かつて権力を欲しいままにした頃の威厳が戻っていました。 怨敵を目にし、封印していた記憶を呼び覚ましたことによって老人の魂に業火が灯ったのです。「やかましい! やれといったらすぐにやれ! 貴様がやらんのなら他のものにやらせるまで! その代わり貴様には後で生きていることを後悔するほどの処遇を課してやる!」 そこまで言われてしまっては彼に逆らう胆力など持てるはずもありません。 緊張した面持ちでその矢を受け取ると、震える手で矢をつがえました。彼の視線の先には戦場を見渡し、勝利を確信したカイゼル王の威風堂々たる騎馬姿。 彼は限界まで弓を引き絞ると、どうか当たらないようにと願いながらその指を離すのでした。 ――ハワード王国 本陣――「間もなく歩兵部隊も到着する! 騎兵たちは敵を逃がさぬよう、周囲を取り囲むことに専念するのだ!」 カイゼルは激動する戦局に応じて次々と指示を与えていきます。大局的にはもう勝敗は決したようなものの、今後のことを考えると反乱軍を外に逃がしてしまうわけにはいかないからでした。 しかし、あまりにも戦場の最前線に立っているため、アウグストが声をかけます。「父上! 前に出過ぎです! もう戦いの趨勢が見えた今、後の処理は伝令だけで充分。せめて弓矢の射程

  • ハワード王国の王子様   第41話 信じがたい必然

    「嘘、でしょ……」 イストリアの胸に去来したのは、まず信じられないという思いでした。 反乱が始まって五日。 ハワード王国から帝都までは通常行軍で二十日、強行軍でも十日はかかります。どう考えても計算が合わないのです。 しかし、イストリアが西の空にずっと視線を向けていたのは、ただの祈りではなく一つの希望があったからです。(彼なら、この事態を予見していたかもしれない) それも他人から見ればただの祈りにしか見えないかもしれませんが、これまで彼の戦術や戦略、そして人となりに触れてきた彼女にしてみれば、あり得ないと捨て去ってしまえる希望ではなかったのです。 そしてその希望は今、現実のものとして西の空に舞い上がっている。彼は期待を裏切ることなく、その眼力で先を見通し、事が起きる前から動き出して今、土煙を上げて帝都への道を急ぎ駆けつけてくれている。 その光景は彼女の心を熱いもので満たし、満たしきれない想いは大きな滴となってその目から溢れだします。「陛下、おはようござ……陛下?」 戦闘準備を伝えるために皇帝の元を訪れたヴィルヘルムですが、彼女が呆然とした様子で涙を流すのを見て驚きました。そして彼女が朝日を背負い、全く視線をそらさず見つめ続ける方向を見て息を飲んだのです。「まさか……」 希望を持っていたイストリアと違い、彼にとってその光景は全く信じがたいものでした。 彼は自分が寝ぼけているのか、はたまた蜃気楼を見ているのかと思い、何度も目をこすりました。しかし、どれだけ目をこらしても西から徐々に近づいてくる土煙は消えることがありません。 頬を濡らす涙を拭うこともせず、イストリアは言の葉をも溢れさせるように声を震わせます。「彼が。彼がこの事を見越して……私たちが事態に気付く前から動いてくれたのよ……」「アウグスト殿下……」 ヴィルヘルムもそう言われて思い浮かぶ人物は一人しかいま

  • ハワード王国の王子様   第40話 広がる綻び

    「今日も、どうにか凌いだわね」 あれから四日が経ち、今日も退却していく反乱軍を見て、イストリアは肩の力を抜きました。 その目にはまだ光が宿っており、決して心が折れたわけではありませんが、にじみ出る疲れだけは隠すことが出来ません。 彼女だけでなく、防衛に当たる兵士の間にもはっきりと疲労の色が見て取れます。 いくら防衛側が有利とはいえ、三倍の数の敵が仕掛けてくる波状攻撃は休む間もなく、食料はあるにもかかわらずそれを食べる時間すら確保できないほど。どの兵士も、皇帝すら日が暮れてからようやくその日の食事を摂れるという状態。 イストリアが確固たる意志を見せ、常に最前線に立っていることもあり士気は落ちていませんでしたが、それも時間の問題でしかないというのは誰の目から見ても明らかでした。 反乱軍には相当な痛手を与え、その数は四万を切るほどになってはいましたが、こちらも無傷というわけではなく前線に立てるのは一万といったところ。兵力格差は四倍に広がってしまっています。「援軍は……来ないのかしらね」 そう言って遠くを見るイストリアの視線は、西の空を見ていました。 ――反乱軍 陣所――「今日も退却してくるとはどういうことだ!」 総指揮官の兵営に集まった将校たちを前に、マーカス議員の金切り声が響きます。 間もなく五日目を迎えようというのに、城門のひとつも突破できていないことに対して彼は焦っていました。彼にとって戦闘というのは勝つか負けるかの二択でしかなく、少しずつ削っていく消耗戦というのはただ時間を浪費しているようにしか映っていないのです。 元々が小心者の彼は、今こうやっている間にも皇帝に味方する援軍がいつ背後に現れるかと、恐々としていたのです。(気の小さい男だ) ローゼンベルクはその様子に冷めた視線を送っていましたが、その心境はそこにいる将校も含めた全員が共有しているのでした。「しかし議員、敵の兵力も確実に削ることができています。このまま攻める手を緩めなければいずれ落城するのは確実です」「いずれ

  • ハワード王国の王子様   第39話 帝都攻防戦

     ――リンゼン帝国 皇帝廟周辺――「ここから五百、南門に援軍を回せ!」「東門に反乱軍が押し寄せるまでに、外の軍団兵を中に入れろ!」「文官たちは矢の補給を手伝え!」 ヴィルヘルムが次々に飛ばす指示に従い、近衛兵と残存した軍団兵たちは効率よく防衛戦を展開していきます。 皇帝廟と言っても広大な敷地を占有して作られたその建物は堅固な要塞そのもので、大軍が通れないよう通路は狭く入り組んでおり、防衛壁や|矢狭間《やざま》から降り注ぐ矢によって反乱軍も前に進めません。 やがて市内に散っていた軍団兵も収容し終え、籠城体制は万全なものになります。 皇帝廟内の食料備蓄はこれだけの人数になると一か月程度分しか蓄えがないので、このまま兵糧攻めともなればいずれ陥落することは避けられないでしょう。 しかし攻める側の反乱軍にも、時間を浪費できない理由がありました。 一部の軍団兵内だけで進めた計画だったため周辺諸国に根回しをすることも出来ず、皇帝側に援軍が到着した場合、彼らは内と外から二重に包囲されてしまうことになるからです。 皇帝を確保できなかった場合の事を考えていなかった浅はかさの綻びが、ここでも大きく顕在化し彼ら自身の首を真綿で締めるようにじわじわと追い詰めていくのです。帝都内へもただ一つの門から侵入したため、皇帝が素早く走らせた援軍要請の早馬は他の門から脱出してしまい、阻止することすら敵いませんでした。 軍勢を集めて進軍させるというのは一朝一夕に出来る事ではないものの、反乱軍にとっても時間が味方になってくれないのは明らかでした。「何を愚図愚図しておる! こちらは三倍以上の兵力があるのだぞ! これしきの小勢、さっさと蹴散らかさんか!」 マーカス議員は口角泡を飛ばしながら指示を飛ばしますが、それは明確な戦略を持った人物の指揮とは程遠く、ただ我を忘れた人間が大声で喚いているだけのものでした。指揮を取る者の焦りは兵士にも伝染し、ガムシャラに攻め寄せるだけの反乱軍は各所で撃退されていきます。 「馬鹿者。いったん兵を退却させんか」 ここに来てローゼンベルクが初めて口を挟みました。止ま

  • ハワード王国の王子様   第38話 最初の誤算

     ――リンゼン帝国 帝都セント・レグナス 市街地―― 帝都兵の一部隊が列をなして祭祀場への道を急ぎます。 市民たちもその姿を目撃していましたが、祭祀にまつわる警護か催しのひとつだろうと思い、特に気にする者はいませんでした。この時点では蜂起した者たちの思惑通り。これが大部隊の派遣であれば、ただ事ではないと騒ぎになっていたでしょう。 そして彼らは市民の列をかき分け、祭祀場へ到着。「どこだ?」「どうして祭司長である皇帝がいない?」 周囲の市民に確認すると、皇帝は役割を終えた後、早々と皇帝廟に戻ったとのこと。 拉致するべき相手の動向すら把握していなかった兵士たち。さすがに近衛兵五千が警護する場所に彼らだけで向かうわけにはいきません。 しばし途方に暮れましたが、いないものは仕方ないので彼らはそのまま城壁外へと引き返していきます。 そしてこれが彼らの計画を大きく狂わせる最初の誤算。 ――リンゼン帝国 城壁外――「皇帝がいなかっただと!?」 報告を受けたマーカス議員は声を荒げます。 自分たちの杜撰さを棚に上げ、まるで実行部隊がしくじったかのように責める姿を、無理矢理連れてこられたローゼンベルクは生気のない瞳でじっと見つめています。「しかし、今日という日を逃しては計画が台無しになってしまう。やむを得まい。五万の軍勢で皇帝廟を囲み、近衛兵を排してどうにか皇帝の身柄を押さえるのだ」 それは当初の計画にはない作戦でした。五万の軍勢は帝都に入ることなく、皇帝を擁して周囲を取り囲むことによって圧力をかけるのが目的だったからです。しかし、皇帝廟を取り囲んでしまえば話は別。この時点で彼らが政府への抗議のために蜂起した者ではなく、はっきりと反乱軍になってしまったことに気付いた者は誰もいませんでした。「鬨の声を上げろ!」 マーカス議員の呼びかけに応じ、城壁沿いに並んだ五万の帝国兵が一斉に|喊声《かんせい》を上げます。 祭祀にて振る舞われた葡萄酒で気持ちよく眠りについていた残りの五万の帝国兵は、突然起きた出来事へ咄嗟に対応することも

  • ハワード王国の王子様   第37話 勃発

     ――リンゼン帝国 練兵場兵士宿舎 作戦会議室――「部屋の外には誰もおらぬか?」 元法務官の肩書を持つマーカス議員が、その神経質な性格を見せてしきりに外を気にします。  隣に立つウェインは護民官の任期途中で帝都から逃亡したため、ようやく今年会計検査官に滑り込みで当選したばかり。  そんな二人がたくさんの大隊長を集めて密室で話し合う様子は、どう見ても通常の軍議ではありませんでした。「そう心配しなくても大丈夫です。この周囲に配置されている兵士は先日の配置換えによって全て計画に賛同している者だけにしてあります。ここに集まっているのも信用のおける者ばかり。万が一にも露呈することはありません」 ウェイン議員が自信たっぷりに言い切ります。政治力とは関係なく市民や兵士たちからの評判だけは高い二人の議員が、来るべき時が訪れた際に動きやすいよう、実に巧妙に長い期間をかけて兵士の配置を変えていったからです。彼らは言葉巧みに兵士たちが抱える不満を煽っては、自派の勢力を拡大してきたのです。  誰もがひれ伏すような威厳はない二人ですが、誰とでも分け隔てなく接する気さくさによって親しみやすい指揮官として人気はありました。その人気によって自分の言葉に同調する人々を結集させることはできたものの、それだけで計画が成功しないことは彼ら自身にも分かっていました。群衆というのは誰もが納得できるだけの権威を持った人間が先頭に立たないと、断固とした行動力を持てないのだと。自分たちにそれだけの求心力がないと判断した二人は、実はなくとも名だけはある人物の名前を出すことによって不満分子の集団を統率していたのです。  周囲の状況を確認して安心したマーカスが密談の口火を切ります。「かつての宰相、ローゼンベルク議員も計画が実行されるのをとても期待しておられる。全兵士が一致団結するというわけにはいかなかったが、約半数の支持を得ることはできた。五万の兵力があれば計画に支障はない。決行の日は来月行われる祭祀の日。人々の気が緩んだ隙を狙って一気に動き、宰相と合流して帝都をこの手に取り戻すのだ!」 予定されている祭祀というのは豊穣の神を祀り、全市民が参加して豊作祈願のために祈りを捧げる日のため、毎年市民だけでなく兵士にも葡萄酒を振舞うのが慣例になっています。その日は酔いつぶれるまで飲む人間も多く、彼らはその隙を

  • ハワード王国の王子様   第36話 反旗の狼煙

     ――ハワード王国 王都カイゼリオン 王城会議室―― 玉座に座るカイゼル王を前に、主たる重臣と将軍たちは厳しい表情を見せています。「その情報は本当なのか」「帝国軍に潜入させている者からの情報だ。間違いないでしょう」「なぜ今頃? 三年もの間大人しくしていたではないか」 彼らが困惑するのも無理はありません。リンゼン帝国が帝国軍指揮層の人事一新を行ってから三年と少し、不穏な動きは一切見られていなかったからです。 十五歳になり、もはや少年の域を出ようとしているアウグストとカイゼル王だけが冷静な表情で報告を聞いてい

  • ハワード王国の王子様   第34話 見えない地雷

     ――ハワード王国 王都カイゼリオン 王城国王室――「以上、我が軍が行った帝国内での任務報告です」「ふむ」 カイゼル王は息子アウグストが淡々と語る軍務報告を顔色一つ変えずに聞いていました。ある程度は伝令役の兵から聞いていたことでもあり、大体の予想はついていたからです。「報告は分かった。して、息子よ、お前の目から見て現在の帝国、及び皇帝はどのようなものだったのだ?」 アウグストは少し考える素振りを見せた後、自分が肌で感じた帝国の空気を率直に述べました。「大多数の市民は皇帝陛下の帰還を歓迎し、窮地

  • ハワード王国の王子様   第32話 駐屯軍

     ――リンゼン帝国 帝都セント・レグナス 皇帝廟謁見室―― イストリアはたくさんの行政官や議員と面会し、それぞれに具体的な指示を出して忙しく過ごしています。 ローゼンベルクは前皇帝時代、内政面で辣腕を振るい父皇帝の信頼を得たのですが、平時の政治と戦時対応とでは勝手が違ったのか帝国の統治機構は酷い有様でした。特に皇帝支持の勢力を一掃したため人材が不足しており、そこに物資の包囲網が重なって帝国政治は混沌としていたのです。 イストリアはまず追放されていた人々を呼び戻し、その人達の帰還を待っている間も時間を無駄にしませんでした。政府の失策によって困窮状態に

  • ハワード王国の王子様   第29話 皇帝の要請

    「そこまで全部見透かされているなら、余計な前置きは不要ね」 そこまで言うとイストリアはそれまでの平民然とした態度を改め、姿勢を正しました。その姿は先ほどまでとはうってかわって威厳に満ちており、この人物が確かに皇帝の血筋を引く者だということを再認識させられます。 カイゼル王とアウグストはもう一度頭を垂れました。「第十二代皇帝イストリア・フォン・リンゼンとして申します。ハワード王国カイゼル・ハワードに正式な同盟関係の強化と、国内の反乱勢力に対する助力を要請します」 この一言により、元老院議員の王太子に対する表敬訪問は姿を変え、リンゼ

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status